ORTでは、技術広報とナレッジマネジメントは強い繋がりがあると考えます。
これは、積み重ねてきた組織のナレッジが技術広報のコアとなる構造を持つからです。
この構造をご説明するためにはまず、技術広報の活動目的は何かを考える必要性がありますが、一般的に会社の規模やフェーズによって異なると考えられています。
シードやアーリーの時期では採用計画と同一になり、
ミドル期では自社の優位性や独自性を示す技術ブランド戦略と同一になり、
レイター期では文化の発信など企業ブランドの確立と関連付けられてきます。
どのフェーズにおいても特に採用とは密接な関係を持つため、「エンジニア採用のための技術広報」という位置付けがメジャーに感じる傾向があります。
しかしながら、技術広報という活動自体の本質は何かということを捉えると見方が変わってきます。
「技術広報」の本質
例えば「広報」は「会社の情報を外部に発信すること」が本質にあります。
「営業」は「会社の商品(サービス)をお客様にご提案し成約すること」などです。
では「技術広報」は何でしょうか?
言葉のままで解釈をすると「会社の技術情報を外部に発信すること」となります。
では「弊社のサービス、◯◯では React を使用しています」と発信することに意味はあるでしょうか?実際これだけでは何の意味もなさないでしょう。
React を使いどのように実装していったのか、実装にあたって何を心がけどのように設計し、どんな体制で進めていったのか。ここに会社の特性や独自性、技術力が垣間見えてくることで、それを為している人の姿が見えてきます。
エンジニアリングは、コードの書き方よりも、その言語やフレームワークを利用してどのような設計で、どのような体制で何に備えて、どういった思想で組み上げていくかを考えていくことが大変重要になります。
つまりここに組織やチーム、個人のナレッジが詰め込まれているとなります。
技術広報はこれらのナレッジを目的に応じて外部に発信することが本質にあると考えています。結果的に採用につながる、結果的に外部のエンジニアとつながる、結果的に自社の独自性を立証する、といった形でフェーズに応じて効果(結果)に結びつけていく流れです。
ナレッジマネジメントの目指すところ
一方でナレッジマネジメントを行うことの目的は知識創造企業の実現になりますが、より平たく表現すると、個々が現場で積み上げたナレッジを共有し組織化することで生産性の向上や、チーム全体の技術の向上を図り、それがさらに個人のスキルアップや新たなナレッジを積み上げていく環境を築き上げていくところにあると考えます。
開発組織全体の生産性向上や技術力向上が、事業の業績や信頼性に繋がり、結果的に会社のブランドを構成する一部になってバリューを発揮するという狙いがあります。
この活動をアウトプットする役割として社内広報と社外広報活動が含まれているといった認識ですが、ナレッジマネジメント全体は組織内部に向いており、その領域は Engineering Manager (EM) や、VPoE、CTO の領域となります。
組織のナレッジを集約し、これを組織化することで生産性や効率を向上させていくためには、人が最重要となります。
ナレッジを生み出す人、ナレッジをまとめる人、ナレッジを形にする人、それを活かす人と、常に「活きたナレッジ」を組織内で運用する必要性があるため、扱う領域に専門性を持ち、さらに組織内で活かせる形にマネジメントする必要性があるといえます。
このナレッジマネジメントにさらに社内外へのアウトプットと認知活動が加わるとなると、EMやVPoE、CTOの負担は計り知れません。
そこで技術広報、DevHR(開発人事)の活躍の場が生まれます。
技術広報とナレッジマネジメント
前述したとおり、技術広報はナレッジを発信する役割で、ナレッジマネジメントはナレッジを組織化する役割を持っていると考えると
- ナレッジマネジメント:インプット
- 技術広報:アウトプット
といった役割で、組織の技術ブランドを構築し、それを育てる人や環境を構築するといった構図ができます。
- 社外に対して広報活動を行う
- 社内に対して周知・広報を行う
- 社内ポータル発信
- 定例会議報告
- 社内交流会
- 社内配信
- 社内勉強会
- 社外に広報した結果や反響を社内に周知する
- イベントレポート
- 活動報告
- 社内ポータル発信など
といったアクションを継続することによって、社内のナレッジの組織化を技術広報も担っていくような形になります。
この取り組みの中で注意となるのがアウトプットすること(技術広報)を目的としたインプット(ナレッジマネジメント)をしてしまうと、アウトプットできないものを対象外とする動きや判断が生まれてきます。
あくまで技術広報の目的とナレッジマネジメントの目的は分離した上で、活動の一環として連携していくスタンスをとるのが罠に陥らない予防線として効果的なのではないかと考えます。
組織のナレッジは最大の武器でありブランドであり、簡単には盗まれない
アーキテクチャや技術情報などを公開すると機密情報が漏れて情報セキュリティ上問題があるのではないかという懸念があります。
完全独自の言語で自社オリジナルのフレームワークを利用し、社内ツールによって開発されているものであれば該当すると思います。また、金融や社会インフラのアーキテクチャやシステムを公開するとなれば問題となります。
しかし、一般的な言語やOSS、フレームワークを利用しているとなれば、公開できる範囲が広がります。コアとなるシステムのソースコードを公開するならいざ知らず、ケーススタディや取り組み、アーキテクチャに対する考え方などナレッジやノウハウに関することとなればむしろ積極的に共有していった方が多くの効果を生み出すと考えます。
この中で、どのようにして生み出したかというナレッジの部分は、
- まさに今会社にいる人たちによって考え生み出したもの
- 自社の文化や体制といった基盤に基づいて取り組んだ独自性
- これまでに取り組み「実績」として形にした成果物
などの点から公開・共有することによって「自分たちにはこれら成果物を生み出す能力(ナレッジ)がある」という強みを示すことができる効果を持っていると言えます。
最大の武器は「生み出す力」であり、「生み出したもの」ではないという考え方によって、共有できる基準が変わるイメージです。